小松 江里子

女流囲碁アマノ杯青龍戦
観戦エッセイ

19×19の盤上の宇宙。
黒石と白石が美しい幾何学模様を織りなしていく。
囲碁は神様が作ったと言われる最高のゲーム。

静かなせめぎ合いが、互いに譲らぬ
熱い攻防へと変わり、そして突如
スパークし跳ねだす碁石。
盤上が輝き出す。

勝利を勝ち取り、高みへと至るのは誰か。

青き龍が見下ろしている。

一陽来復。ここは国の名勝でもある横浜の三渓園。
厳しい寒さの中でも、枝の先の蕾の中では、春の兆しが芽吹いている。
今日、十二月某日。この三渓園で青龍戦が行われる。

青龍とは、東洋の守護神の一つで、春を司り、古来瑞兆とされている幸運の神。
その栄冠を賭けた四人の女流棋士たちの戦いである。
まずはその棋士たちを紹介する。

一人目は、「絶対女王」藤沢里菜。先月、女流本因坊戦で五連覇し、名誉女流本因坊となる。
祖父は、伝説の棋士、藤沢秀行名誉棋聖。

続いて囲碁界に舞い降りた天才姉妹、女流立葵杯の上野愛咲美と今年初のタイトル女流棋聖を獲得した妹の上野梨紗。
姉は、その棋風から「ハンマー」の異名をもつ「世界が恐れる破壊姫」。
その言葉通り、先日の女子世界メジャー棋戦で日本初のメジャー制覇という快挙を成し遂げた。
十八才の妹はその姉を追いかけ、ライバルと言い切る「令和の囲碁姫」

四人目は、名誉女流三冠の謝依旻。
女流棋士として最多のタイトル保持者。
話題となった鬼滅の刃の衣装を身にまとい碁を打つ姿は、まさに華麗なる「レジェンド」。

すでに一回戦は終わり、その様子を映像配信の解説をしていた本木克弥九段にお聞きする。

本木九段は、強力なパンチを打ち込むハードパンチャーとしてあまたの強敵を打ち倒してきた天才棋士のお一人だ。
(この後の決勝戦でも、囲碁初心者の私の隣で解説しながら教えていただく)

「いやあ、大石が死んだんです!最後の最後で」
藤沢里菜先生と上野梨紗先生の対局のラストが印象深かったそうだ。

大石が死ぬ?

これを物語風に言えば、例えば敵国にスパイを密かに送り込み、徐々に包囲網を作りあげ一網打尽にする作戦だ。
もちろん相手も油断しているわけではない。
なので「私は何も企んでいませんよ」というカモフラージュが大事。

他の場所に石を打ちながら気をそらさせ、その時を待つ。
そして相手が気づいた時にはもう遅い。

がんじがらめに囲われて、どうあがいても逃げられない。
ごっそりとその場の自分の石が取られてしまうという、恐ろしい戦法である。

ちなみにこの大石で負けた後は、敗者は呆然とするのみ。
どうして気づかなかったのか、あの時あそこで、なんで……と、後悔にくれるらしい……。

そんなドラマチックな初戦があり、勝ちあがったのは、藤沢里菜先生と上野愛咲美先生。

これから決勝戦が始まる。

      

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